新堂冬樹『ぼくだけの☆アイドル』にデフォルメされた僕がいる

ぼくだけの☆アイドル

ぼくだけの☆アイドル

良い意味で腹が立った(間違った日本語)。途中で何度この本を壁に投げつけただろうか。
そして、笑った。そう笑った。「これはデフォルメされた僕だ」と笑い泣いた。


娯楽作品として、こういうステレオ・タイプを出すことに関して、色々な意見があると思う。
しかしアイドルイベントに足を運んだ人なら、これを読んである種の痛さを感じるのではなかろうか。


新堂冬樹の他の小説は読んでない。従って彼の他の作品と比べてという読みは私にはできない。
というか、私は最初からこれを小説として読む気すらなかった。
本の帯の推薦文が無ければ手に取ることもなかったであろう。

相手がアイドルでもアニメでも、好きなことには貪欲に!
たった一度の「今」なんです。よく分かるからギザ応援したくなるお(^ω^)
中川翔子

そう、全ては最初から仕組まれていたのだ。



デフォルメされた僕の具体例

・自意識過剰、誇大妄想、法螺吹き、同属嫌悪、ナルシシズムの情動の塊
・誰にも訊かれてないのに、過剰な説明・弁明をする
・異性との接触に慣れていない ⇒ それを認めない
・テンションの高い人、ノリの良い人についていけない ⇒ それを認めない


ついでに主人公のあきおくん(27歳)は中野の昆虫ショップで働いている。
従って彼の行動範囲には私と同じく中野ブロードウェイが入っている。
そんなところまで類似させないでよ。



アイドルの肉体や心が欲しいのではない。風景や状態が欲しい。というナルシシズム

あるアイドルを欲望するということは、そのアイドルそのものよりも
そのアイドルとの関わりにおいて可能となる<風景>や<状態>を欲望することだ。


主人公のあきおくん(27歳)はアイドルのみーちゅんと自分が付き合っているという
妄想を信じ込もうとしている。(友達以上恋人未満という設定らしい)


仕事でもプライベートでもうだつがあがらない彼は
でも「本当は自分はあの、アイドルのみーちゅんと付き合っている」
という妄想を作り出すことで、ギリギリの所で自分を正当化できるのである。


だからこそ、自分の存在意義を保つために、そのアイドルの情報収集を行う。

アニメ、フィギュア、ゲーム、昆虫・・・・・・。
すべてが浅く広く、悪く言えば中途半端な僕だったけれど、
みーちゅんに関する知識だけは、誰にも負けないつもりだったし、
負けるわけにはいかなかった。


新堂冬樹『ぼくだけの☆アイドル』− 五 ライバル)

何故「アイドルとの個人的関係」妄想による自己救済が普及したのか

解らない。というかこの問い自体が正しいのかどうかすら解らない。
また、70年代・80年代のアイドルファンの人がどういう考えを持っていたのか
私には解らないので、比較ができない。


一つの仮説として

「恋写」に代表されるような、
写真家とアイドルとのパーソナルな関係を強調するような作品が世に出るにつれ、
ファンの視線が、「みんなの○○」から「ボクだけの○○」へと変化していったのではないか? 
それが高じて、「素」の部分を掘り起こす作業を見るだけでは飽き足らない人が現れて、
アイドルのファンのコア化が進んでいったのでは?

『QJ』「総力特集グラビアアイドル」を今更読んでみた | Parsleyの「添え物は添え物らしく」

というものがある。なるほど。面白いなぁ。そこらへんどうなんでしょうね



アイドルシステムは究極の自分中心人間のためにある(という暴論)

アイドルと接するときに、実際に握手などをしたとしても
私には、生身の人間と関係を持ったという感覚を抱くのが難しい。
というよりは「生身の感覚」といったものに高い価値を置いていないと言った方がよいか。


私はできるだけ<愛>や<生殖>を拒絶したいのだ。
従って「アイドルにうつつをぬかすのもいいけど彼女作れ」等のアドバイス
私には全く意味を持たないのだ。(もちろん、お前が彼女作れないだけだろ、という批判は正しい)


何故なら、実体のある「彼女」という存在には
<愛>や<生殖>といった邪魔なものが必要だからである。
他者との親密で友好的な関係を長時間続けるのは怖い。


アイドルは必要だが、彼女は必要ない。邪魔なのだ。


念のために記しておくが
もちろん彼氏彼女が欲しいと思っているアイドルおたくや
もしくは付き合っている人がいるという状況でアイドルを追っかけている人もいる。
結婚していて、自分の娘にコスプレさせてアイドルイベントに来ている人もいる。
そういった人とお話させていただくと、ある意味健全だなぁと感じる。



本の話に戻る:アイドルイベントの描写

「一 マイガールフレンド」と「五 ライバル」でイベント時の状況が描写されている。
サイン会等で並んでいるときに、意味もなく財布の中身を見るところや
ファンクラブの会員番号の数字で優越感や劣等感を味わうようなところなどが面白かった。
感想おしまい。

2007/01/02追記:テレビ東京系列で放送されたドラマ版の感想

http://d.hatena.ne.jp/Imamu/20070102