アイドル狂いの似非心理学――ビアス『悪魔の辞典』を手がかりに

あどけなさ (artlessness n.)

魅力のあるある種の性質であって、女性たちは長期にわたって研究に研究を重ね、
かつ自分たちを賛美する男性どもを稽古台にしてきびしい訓練を積んで
初めてこれを身につけることができるのであるが、
一方男性どもは、この性質が若かりし日の自分たちに見られた
あの誠実な純真さに似ていると想像してご満悦なのである。
アンブローズ・ビアス 著, 西川正身 訳 『新編 悪魔の辞典』1997 岩波文庫)p27

なるほど。
訓練によって身に付けたアイドルたちの<仮想の純真さ>に
在りし日の理想の自分を重ね合わせるということか。

女優 (actress n.)

あまりにもしばしばわれわれの口にのぼるところから、
その名声が、通常、汚されているおんな。
(同上)p135

だから、知り合いでもない人(この文脈ではアイドルを指す)について
あれこれ語ることに対する罪悪感は常にある。
「それが芸能人の宿命」のように片付けることができることは
よく承知しているが、本当にそれでよいのか。
私にはそう簡単には割り切れないのである。

熱狂 (enthusiasm n.)

青年がかかり易い病気で、
経験という外用薬を用いるとともに、後悔という内服薬を少量ずつ服用すれば、この病気は直る。*1
(同上)p199

おそらく、「熱狂」は「媚薬」なのではないかという気がしている。


・「経験」という「外用薬」について
→「熱狂の経験を積めば、慣れがでてきて、熱狂という媚薬の効果が薄れる」
という意味ならばそれは、一概にはいえない。
例えば、ギャンブル依存症の人は、確かにその種の熱狂に耐性が出来ているので、
もはやちょっとした(ギャンブルによる)刺激では感動したりしないかもしれない。
しかし、だからこそ、より強い刺激を求めて、ギャンブルに熱中してしまうのである。


→「様々な経験をして、大人になれば、青年の頃に熱狂していたものから遠ざかる」
という意味ならば、私がひきこもって、ニートでありつづければよい。



・後悔という内服薬 → 生まれたことを毎日後悔しているので問題ない。

プラトニック (Platonic adj.)

ソクラテスの哲学に関係ある。
プラトニック・ラヴ」とは、不能と不感症との間の愛情に対して愚か者がつけた名称。
(同上)p226

確かに私はある種の「不能者」であるかもしれない。

偏愛 (predilection n.)

幻滅への準備段階。
(同上)p229

最初から全てに対して幻滅しているので偏愛と幻滅は共存し得る。

恋愛 (love n.)

(一)一時期の精神異常だが、結婚するか、あるいは、
この病気の原因になった影響力から患者を遠ざけるかすれば、簡単に直る。
この病気は、カリエスその他の多くの病気と同様、
人工的な環境に暮しているいわゆる文明人の間にだけ発生し、
清らかな空気を吸い、粗末な物を食べて暮している未開人は、
この病気の災害から完全に免れている。


(中略)


(二)自分自身については何一つ知らないうちに、他の者について多くを思う愚行。
(同上)p283


(一):恋愛という精神異常―発狂―と、アイドル狂いという精神異常は
一見似ているようだが、違う種類の精神異常なのか?


(二):自分の容姿や風貌は全く気にしないのに、
アイドルの容姿や風貌や演技の出来栄えは
異常なほど仔細に検証し、一方的に判定を行なうという愚行。

君のはずかしいソレ 君の汚れたコレ 君のいやらしいアレ
君が女の子の日 君が女の子の日 君が女の子の日
全部知ってます フェー


蜉蝣「アイドル狂いの心理学」の歌詞より)

全く関係ないが「アイドル狂い」で検索したら
「安倍首相アイドル狂い」というのがトップに出てきて笑ってしまった。

*1:病気は「治る」だが原文に従った